8日間のしいたけ栽培記「しいたけが私の“推し”になるまで」【ソロ休日の過ごし方 #2】

副業

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3月の末から4月にかけて、私はキノコと共に生きた。これはあるひとりの女が部屋でキノコを栽培し、愛情が芽生え、そして食べるまでの、キノコと生きた一カ月間の手記である。

こういうの、一度言ってみたかった。

以前から気になっていたしいたけの栽培キットを買ってみたのである。思い返せば、何でもいいから気の紛れることをしたかったのだと思う。

奇しくもこの頃、世間では新型コロナウイルスのパニックにより、スーパーで買い占め騒動が起こっていた。つまり今、しいたけ栽培キットを買うのは大正解だったんじゃないか。時代は自給自足である。自給自足すれば、買い占める必要もない。

【1日目】すぐに、栽培開始

しいたけ栽培キットは、届いたらすぐに栽培を始めなければならない。そうしないと、箱の中でしいたけが勝手に伸び始めることがあるらしい。栽培を始めるといっても、箱から出して原木を軽く洗い、付属のケースに入れるだけ。あとは1日1回、原木の表面が乾かないように霧吹きで水を吹きかける。

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箱から取り出して栽培開始

しいたけの原木を家に置き始めて丸1日、見たところ特に変化はなさそうだ。原木の質や室温次第でうまく育たないこともあるようなので、ちゃんと生えてきてくれるのか心配である。

【2日目】変化なし、不安

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しいたけ2日目

2日目の夜も変化は見られなかった。そんなにすぐに成長しないとわかっていても、不安が募る。

【3日目】芽が、嬉しい

3日目の夜。原木をよく見たら……少し生えてきている気がする。初日に撮影した原木の写真と見比べる。間違いない。生えてきている。しいたけの芽のようなものが、小さいながらもポコポコと盛り上がっている。嬉しい。

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しいたけ3日目

【4日目】しいたけは、面白い

4日目、しいたけは昨日より明らかに成長していた。まだまだしいたけの形には程遠いが、昨日確認した小さな盛り上がりがさらに増え、しかも長くなっている。このあたりから私はしいたけの面白さに魅了され始めるのだった。ただ霧吹きで水を吹きかけただけなのに、1日でこんなに伸びるのか。しいたけ、面白すぎる。

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しいたけ4日目

【5日目】しいたけは、力強い

5日目に入ると、初日のまっさらだった原木とは見違えるほどに、みっしりと生えてきた。一度増え始めるとそこからは早いのかもしれない。形はまだ小さなマツタケのようで、カサは開いていない。たった1日、目を離した隙にもりもりと成長するしいたけに、生命のたくましさを感じる。写真だと伝わりにくいかもしれないが、成長途中のしいたけを目の前で見ると、本当に力強いのである。小さな体から、パワーがにじみ出ているのだ。

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しいたけ5日目

世界は今、ウイルスによって毎日毎日人が死に、生活は大きく変化し、人々はすさんでいっているというのに、こんなときでもしいたけは強く生きている。ウイルスの力は強いかもしれないけれど、しいたけも強い。冗談を言っている場合じゃないのはわかっているけれど、菌というものの強さを身をもって知る思いだった。

【6日目】しいたけは、エンターテインメントだ

6日目。すごい。ワッサァーと生い茂っている。芽が出てからの成長スピードに目を見張る。

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しいたけ6日目

ここまで大きくなると、しいたけたちは少し狭そうだ。狭い中でも懸命に生きる姿がいじらしい。そして、毎日必ず変化を見せてくれるしいたけは、それだけで最高のエンターテインメントである。生きているだけでエンターテインメント。生きているだけで偉い。そこにいるだけでかわいい。だんだん自分の中でしいたけがペットのような存在になってきているのを感じる。あと1、2日で食べる予定なのに。どうしよう。

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しいたけ6日目

【7日目】迫る、収穫

7日目。カサがひらき、しいたけらしい形になってきた。本当はもう、ここまで大きくなれば収穫してもいいのだ。みっちみちに生えていて狭そうだし、収穫してあげたほうがいいのはわかっている。わかっているのだけど……。

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しいたけ7日目

【8日目】しいたけは、生き物だ

しいたけを育て始めてから8日がたった。もうこれ以上は場所がないくらいにまで大きくなってしまった。今日こそ収穫しなければ……。

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しいたけ8日目

しいたけはかわいい。しいたけは生き物だ。「食」としてのしいたけが、毎日育てるうちにいつしか「生き物」としてのしいたけになっていた。収穫してしまうのが悲しい。

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しいたけ8日目

【そして……】おいしいのに、切ない

しいたけが……。
変わり果てた姿に……。

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収穫されたしいたけたち

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おいしくて切ない

採れたてのしいたけは香りが強く、弾力があり、抜群においしい。言うまでもなかろう。この世では、採れたてのものはなんだっておいしいようにできている。おいしいのに、やっぱりどこか少し切ないのだ。こんなしいたけがあっていいのか。

アイドルとか俳優とか、そういうものにハマったことがない私は、「誰かから元気をもらう」という感覚がいまいちよくわからなかった。正確に言うと、そういう感覚が存在することは理解するのだが、いかんせん自分がそういう気持ちになったことがないため、ちゃんとはわからない、と思っていた。けれど、私がこのしいたけ生活で感じ取っていたのは、まさにそういう感覚なのではなかろうか。しいたけから学ぶのもどうかと思うけど。間違いなく私は、しいたけの毎日の一挙手一投足を楽しみにし、エネルギー溢れる若いしいたけの体全体から、元気をもらっていた。アイドルや俳優を推すって、こういうことだったのか。本当に意味のわからないことを言っているけど、本気である。私はたぶん、しいたけを推していたのだろう。

おそらくしいたけはあらゆる栽培キットや家庭菜園の類の中で、最も育成が簡単なのではないかと思う。しいたけは芽が出るのが早く、毎日きちんと大きくなる。成果が出るから毎日見たくなり、水やりもしたくなるのだ。だから簡単に感じるのだろう。逆に、花を枯らさないのが難しいのは、基本的にはもらった瞬間(買った瞬間)がピークだからである。そこからいかに「変化(枯れ)させないか」を目的に水やりをする。単純に花を見ること自体が好きならよくても、そうじゃないいと、これではつまらない。変化がないと、水やりをするモチベーションがわかないのだ。花にしてみればずいぶん勝手な人間の言い分だが。また、毎日の変化が多い分、しいたけには“動物感”があり、だんだんペット感覚になっていったのだと思う。 

ちなみに、しいたけ栽培キットの原木は、何周か育てることができる。私の原木も、放っておいたら数日後に二周目のしいたけが育ち、三周目はうんともすんとも言わず、原木は静かにカビていった。何周かするうちにいつしか原木の栄養が減り、あまり育たなくなるらしい。こうしてあっけなくしいたけ生活は幕を閉じた。

幕を閉じたのだが。

【後日】なめこ&エリンギ栽培記(短編)

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その後、味を占めた私は、エリンギとなめこも育てることにし、結局しいたけを育て始めてから一カ月間も何らかのキノコと共に暮らしたのだった。エリンギもなめこも、しいたけと比べると芽が出てくるのが遅く、かなりヤキモキさせられた。エリンギは2週間ほど、なめこは3週間ほどかかったんじゃないかと思う。芽が出てからはしいたけ同様におそるべきスピードで増殖した。全然育たないかと思ったら、めちゃくちゃ育つ。しいたけと比べるとこちらの気持ちをかなり振り回してくるタイプのキノコである。

エリンギとなめこは、見たことのない特大サイズのものが爆誕し、困惑した。最後にそのご尊顔を披露して終わりたい。

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立派に育ったエリンギ

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なめこも困惑するほどの大きさに

文=朝井麻由美
マンガ=藤沢チヒロ
編集=TAPE

<プロフィール>
フリーライター・コラムニスト。雑誌連載やテレビ・ラジオへの出演多数。著書に『ソロ活女子のススメ』(大和書房)、『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)など。ひとりでの行動を「ソロ活」と称し、ひとりスイカ割り、ひとりバーベキュー、ひとり流しそうめん、ひとりナイトプールなど様々なことをひとりで楽しむ。趣味は食べ歩きと人狼。Twitter

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Source: おいしさ発見メディア「furi-kake(フリカケ)」

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